2022年10月27日木曜日

とある公共施設の整備に関する質疑で感じたこと 

 「この施設の設計にあたって、特にダイバーシティやインクルーシブ、人権配慮はどのように行われましたか?」 

 このような質問をしました。ある日の教育委員会定例会で審議された、市内のとある施設整備に関する議案についての一コマです。こんなに簡潔に言っていなかったかもしれません。一言一句正確ではないけれど、上記のような質問をしました。  

 誤解のないように、この投稿で言いたいことを先に述べておくと、予算の扱いや、設計・施工等の手続きに瑕疵があるとか、当該の施設に問題があるとかといったことを指摘したいわけではありません。むしろ、「問題がない」というところにこそ存在している「課題」を共有したいという思いをもって、この記事を書いています。 (議案としてかけられた提案案件については、問題なく承認されました。)  

◎質問の意図 

 質問をした意図は以下のようなものです。  

 事務局からの説明資料の中に、当該施設の設計図面がありました。それを見ると、シャワーや更衣室、トイレ等の設備が表示されていましたが、図面を見る限り、トランスジェンダーをはじめとした”男/女に割り振られた設備の利用に抵抗を覚える利用者”が十分に想定されていないのではないか、ひいてはソフト面においても、そのような場合にとるべき対応等が必ずしも十分に検討されていないのではないかと疑問を持ちました。ここで一度、確認しておくべきだと思われ、冒頭の質問を発言するに至った次第です。(十分な想定や検討は行われていないのではないか、という疑問が生じたことによる)。  

 尼崎市は、ダイバーシティ推進課を設置し、性の多様性に関する理解について取り組みを進めているものの、現実にはいまだ課題が残り、新聞や報道にのぼるような問題が生じたこともありました。そのような中で、施設の整備がどのような配慮をもって行われようとしているのか、確認しておく必要もあるだろうと思った次第です。  

 ただし、当該の建築物は、すでに設計図面の作成は完了(納品)されており、かなり工程として進んだ段階にありました。手続き的にここでストップするというのは現実的な対応ではないという状況ではありました。しかし、設計段階では想定されていなかったとしても、運用・対応といったソフト面で対応をとることができることも多いはずです。そういった事柄にどのような対応や配慮が可能かを検討すること、また今後の施設建設などで当然のように考慮や検討に含まれることも期待してこの問いを投げかけたという面もありました。   

 ◎事務局による応答・回答 

  まず、説明担当の事務局職員さんの応答をみると、おそらく「想定外」の質問だったのだろうと思われます。それはそうでしょう。そもそもが、本筋は、設計や内容に関するところとは別の案件なのですから。(しかし、この質問をすることがまったく的外れでもないと思われるような審議内容でもありました。)  

 やり取りの中で、当初の質問からより具体的に「例えば”トランスジェンダー当事者”の利用は想定して設計や対応を取られたのか?」と問いたずねてみたところ、施設設計のところで「それがあった」という回答はありませんでした。ただ、投げかけた指摘や課題感は、前向きに受け止められ、その課題感を共有いただけるような返答であったので、決して後ろ向きな姿勢ではなかったことも付言しておきます。  

 また、質疑の中で、担当職員の上職の方から、補足として説明されたものは、設計にあたっては、福祉的な配慮等については、県の条例で制定されたものがあり、それに則って仕様を作成し、発注・設計を進めるというのが手続きが行われたという説明でした。  

 兵庫県の場合、おそらく該当するものは、この条例であろうと思われます。(現在確認しています)  

◎兵庫県 福祉のまちづくり条例

https://web.pref.hyogo.lg.jp/ks18/kendo-toshiseisaku/hukumachi/201209_renewal/jourei2.html

◎兵庫県 福祉のまちづくり条例逐条解説 ―特定施設整備編― - 兵庫県

https://web.pref.hyogo.lg.jp/ks18/kendo-toshiseisaku/hukumachi/201209_renewal/documents/chikujyokaisetsu2204.pdf

 現状、留意すべきこと、満たすべき条件や仕様についてはこのように詳細に制度化され、それに則った施設の整備が行われているということ、今回の施設整備もそれに外れてものではないという「まっとうな回答」であったと思います。


◎個人的所感と問題の所在 

 さて、ここまで経緯とあらましを述べてきて、何を問題としたいのかということをまとめておきたいと思います。 

1、自分の思いと希望 

 私自身の思いとしては、行政組織には可能な限りダイバーシティに配慮した、インクルーシブな施策や対応をとってもらいたいと願っています。今回の件においては、施設建設において、(将来的であっても)それが達成されるように望んでいます。 

 より具体的には、セクシュアル・マイノリティ(今回のケースでは、トランスジェンダーをはじめとした、性自認に基づいた対応を求められる人、身体的にも性別を移行しようとしている人、あるいは移行した上でそれを望む人)を想定して施設設計が行われたか、あるいは運用上配慮しやすい形はどのようなものかということを検討した設計したり、議論が行われたかということ。今回、それがなかったとしても、今後はそれが行われるように、願っています。当該の場での質問や今回の投稿もそれを願うものでもあります。もちろん、性の多様性だけではなく、日本以外に出自や文化的ルーツを有する「多文化共生」という面からも考えていくことがらはたくさんあることも無視してはいけません。 

 ダイバーシティ推進課を設置し、多様性とインクルージョンをうたっている本市では可能な限り、それが行われるべきだろうと考えています。 

 2、現状と課題 

 行政職員として、事務局はじめ市職員・教職員のみなさんは「制度」にのっとり、なすべきことを実直にされています。実際に、新規の建築物を設計し建築する際、あるいは建て替えや改築等施設整備する際に準拠すべき県の条例(上述)があり、それに基づいて、仕様書を作成し、(現状の)基準から外れないちゃんとした施設整備が行われようとしているわけです。 

 しかし、逆の言い方をすれば、現状の制度の上では、その基準にあった及第点の設備が建設・設計されていたとしても、まだ制度が追いついていない課題については、担当職員や最終確認する決定権者の意識が及ばなければ、一つ手前の施策が行われていく、という一歩遅れた対応になってしまうのではないか?という課題であるわけです。 

 先進的な、次のステップのダイバーシティ、インクルージョンが想定された施策や、設計が行われるためには、そういった制度や条例で制定されていることよりも進んだメンタリティや知識、あるいは制度・条例から抜け落ちている人や課題を救いとるような感覚・アンテナを有する必要があるということでもあります。(しかし、それをすべての「職員」が有することをもとめるのは、現状から酷であり、それは「ステップ」ではなく、むしろゴールとして設定される状況であろうと認識しています)  

 つまり、現行の基準に則るだけではなく、常にその枠組みから漏れている事柄はないか、排除されている人はいないかという不断の見直しが行われなければならないし、そこに対する配慮や認識を更新し続ける営みが必要なのではないかということなのです。

3、これを次のステップに進めるためには、どうするか? 

 現実的には、(1)担当職員の意識や理解の高さという属人的な部分に頼りつつ、(2)現状抜け落ちている課題を社会的に共有し、制度自体を次のスタンダードに進める、ということがステップが想定できるのではないかと考えています。 

(繰り返しますが、これは行政と行政職員に対して、怠惰だとか無理解だと批判するものではありません。現状のスタンダードを、どのように次のステップに進めるのかという課題や、対応を共有したく思ってこれを書いています。 )

 私の課題に思っていること、理解していることは上に書いた通りです。言葉足らずや伝わりにくいところもあるかもしれません。行われるべきことは、知識をもって、意識を向ける人を増やすということではないかと思っています。 

 ダイバーシティ、インクルージョンをより進めるためには、次のことをここでお願いしたいと思っています。 

(1)一緒になって考えてほしい。 

  → みなさんの考えや、アイデアを聞かせてほしい。 この投稿についての感想も聞かせていただきたい。 

 立場ある人だけ、直接的な責任のある人だけの責任にするのではなく、そういった人も含めてやはり社会的な意識や理解、ニーズの共有が必要になるだろうと思っている。教育委員や議員といった立場をいただいている者だけがしているという形にはやはり限界があり、賛否も含めて、多様な大勢のみなさんの声をいただきたいと思った次第です。 


(2)会議や議会で、「質問」をする人が増えてほしい。 

 とはいえ、やはり「公式」な場で、何が問われ、何が意識させられるかということほど重要なことはないとも思っています。条例や制度の設定にいたるまでは、「その未だ制度化されていない課題がすでに多くの人が求めていることである」とか、「当然配慮されるべきこと」として、意識される必要があるだろうと思います。こういった行政の予算審議や、建築物を設定するといったハード、施策や対応等のソフト面で当然留意すること、対応することといった意識をもってあたられる必要があるでしょう。 同様の課題感は、多くの場で確認いただくことで、関わる人の意識がそこに向かうようになり、それから条例や制度に進んでいくのではないかと思っています。 

ひとまず、先日の会議でのやりとりと、思ったこと、共有したいと思ったことをつれづれに書き出してみました。

 

2 件のコメント:

  1. 投稿を拝見させていただきました。委員会で課題を見出してご質問していただき、またこうしたオープンな形で意見交換をと投げかけていただき、ありがたく思っています。ダイバーシティでインクルーシブなトイレについては、私が仕事で関わっている一部でもあるので、ご参考に情報提供させていただければとおもいます。ご覧になった他の方からも、ぜひ情報やご意見をお聞かせいただけると私もありがたいです。

    1.全国の状況
    ・2020年(令和2)年から、特別支援学校に加え、公立小中学校も「特定特別建築物」として、国土交通省のバリアフリー基準適合義務の対象に追加され、バリアフリートイレ設置などが義務付けられています。兵庫県では、これ以前から福祉のまちづくり条例で公立小中学校等を特別特定建築物に追加しています。
    ・これ以外の公共施設についても、基本的にバリアフリートイレ(多機能トイレ、多目的トイレ)の設置が建物に1つ(できれば各階に1つ)設置が義務づけられています。
    ・学校や公共施設のトイレについては、改修の機会をとらえて、「だれでもトイレ」として、バリアフリートイレに加え、個室型の男女共用トイレ(コンビニや自宅にあるようなトイレ)を複数設置する事例が増えています。インクルーシブ教育のためにも、またダイバーシティや共生社会についての生きた教材としても重要です。
    ・男女別以外の更衣室を設けることは、スペースや費用の面で難しい場合が多いですが、1)バリアフリートイレの中に折り畳み式の着替え台を設ける、2)男女別更衣室内にカーテンを設置し区切れるようにする、といった事後的でも容易かつ低コストで可能な支援施策も各所でとられています。
    ・残念なことに、こうした情報が全国の自治体・教育委員会に十分浸透していないのが実情です。

    2.その自治体へのコメント
    ・その自治体の「学校施設マネジメント計画」では、特別支援教育の対象となる児童生徒、外国籍の児童生徒、LGBTなど性的マイノリティなど、多様な児童生徒等へのきめ細かな対応のため、機能的に対応できる施設整備に取り組むと、施設整備方針を定めています。
    ・今後に向けて、ご指摘のようにハード・ソフト両面で多様性とインクルージョンを具体化するよう改善が必要と思いいます。ちょうどこれから来年度予算の検討・策定を進める時期なので、いまご提言いただくと、来年度以降の計画に反映・改善でき、有意義とおもいます。また費用が軽微なものは今年度補正予算で対応可能かもしれません。

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    1. 岩本さま いつもおせわになっています。^^
      大変参考になる情報ありがとうございます。
      コメントのなかにあるように、やはりどうしても「費用・コスト」という面を含めて考えなければならない課題かと理解してます。そのため、「制度化されているかそれ同等のレベル」くらいのコンセンサスがないと費用をかけているハードルが高くなるように思います。

      お教えいただいた、費用をかけなくてもできること、代替で可能な対応・アイデアも蓄えつつ考えを進めていけたらと思います。ありがとうございます。

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