2010年9月3日金曜日

マイケル・サンデル『これから「正義」の話をしよう』

マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学』

いま話題のベストセラー。今日も研究所で、ふとしたことから話題に上がった。
本書のテーマは、正義に関する、アプローチに関する論点を整理した上での議論ということになるだろう。

価値あるものの分配にアプローチする三つの観点があるという。つまり「幸福」「自由」「美徳」。
そして、「われわれの議論のいくつかには、幸福の最大化、自由の尊重、美徳の涵養といったことが何を意味するのかという見解の相違が現れ」、「また別の議論には、これらの理念同士が衝突する場合に、どうすべきかについての意見の対立が含まれている。」
そして、「この本では、正義に関するこれら三つのアプローチの強みと弱身を探っていく。」というのだ。



われわれが「正しいこと」をするとき、それは何を基準として、何に基づいているのか、その根底を問い直すような作業をさせてくれる本。

五人を助けるために、一人を殺すのは是か非か。
貧困者を助けるために、富裕者に高率の課税をすることは是か非か。
隠れている友人を助けるために、嘘を言うべきか否か。

「どうすべきか」ではなく、その一々の選択が、どのような価値観に基づいているのか
そしてそれをつきつめたときにどのような矛盾にぶつかるのか。
複雑な倫理思想、政治思想が基づく根底を、問いの中で明示してくれるような良書。

読んでいるときに、ふと、中学時代の先生が道徳の時間に、僕らに与えてくれた問いを思い出した。


自分の子どもが難病で苦しんでいる。
その薬は1000万円するが、自分の手元にはどうやっても500万円しかない。
その薬は、薬屋さんにあるが、500万円ではどうしてもゆずってくれない。
自分の子どもは早く薬を与えなければ死んでしまう。

そのような状況で、自分ならどうする?

中学生はどうしても正解は何か?と聞きたくなってしまうが、先生は正解はない。と
何度も強調していたように思う。
問われているのは、正解ではなく、答えのない選択をしなければならないときに、何を大切にするかということだろう。
悪を犯さざるを得ない場面、後悔を背負わざるを得ない場面というのが人生の中ではやってくる。
どう動いても苦しまざるを得ない選択というのがあるんだろう。
そんなとき、決断すべき基準は何か?

そんなことが問われていたように思う。
ふと、この本を読んで、その先生の投げかけを思い出した。






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