2020年3月3日火曜日
中島岳志『親鸞と日本主義』新潮選書、2017年。
中島岳志『親鸞と日本主義』。
2017年に刊行されて、話題となった書物。もともとは季刊『考える人』で連載されていたものに加筆・修正と書きおろしを加えて刊行されたもの。
連載の段階から、戦前・戦中の国家主義(超国家主義)と親鸞思想との接続・関係を論じるものとして大変注目させていただいていた。
三井甲之、蓑田胸喜、倉田百三、教戒師と転向した共産主義者たち、亀井勝一郎、吉川英治、暁烏敏等といった国家主義思想を唱えた人物・グループがいかに親鸞思想をベースに自説を唱えていたのかを明らかにした書物。
もともと、戦前・戦中の国家主義と仏教との関係でいえば、日蓮主義との関係がよくしられていた。石原莞爾、田中智学、北一輝等の日蓮主義者と国家主義・国体思想との関わりがよく知られていた。一方で、親鸞思想はいずれかというと、今日の状況から「リベラル」的なものとして理解されることが多かったのではないだろうか。
しかし、現実には、戦前・戦中には浄土真宗本願寺派でも「真俗二諦」という戦時教学を構築し、積極的に戦争協力・国家主義体制に荷担をしたという事実がある。
本書では、次のような指摘がなされている。
幕末に拡大した国体論は、国学を土台として確立された。そのため、国体論は国学を通じて法然・親鸞の浄土教の思想構造を継承していると言える。「自力」を捨て、「他力」にすがるという基本姿勢は、「漢意」を捨て、神の意志に随順する精神として受け継がれている。
ここに親鸞思想が国体論へと接続しやすい構造が浮上する。浄土教が国体論に影響をうけているのではない。国体論が浄土教の影響をうけているのである。法然・親鸞の思想が国体論の思想構造を規定しているのである。
そのため親鸞の思想を探求し、その思想構造を身につけた人間は、国体論へと接続することが容易になる。多くの親鸞主義者たちが、阿弥陀如来の「他力」を天皇の「大御心」に読み替えることで国体論を受容して行った背景には、浄土教の構造が国学を介して国体論へと継承されたという思想構造の問題があった。浄土真宗の信仰については、この危うい構造に対して繊細な注意を払わねばならない。(本書・終章282ページ)
国学(本居宣長)と浄土教思想との接点があるという思想史的な視点と、実際の国家主義者たちの主張・思想をひもときながら、上記のように指摘されたことは傾聴に値する。親鸞思想の特に阿弥陀如来の「他力」に関わる思想が、天皇の「大御心」と同一視され、国家主義と接続していったというのである。
一方で、より一般化すると思想一般がもつ危険性があるということにも個人的には注意と関心をむけておきたいと思う。安全な思想などあるのかという問いに対しては、「否」と答えるべきではないかと思っている。
経典や教義をいかに解釈するか、いかに現実的な実践やあり方に落とし込んでいくか。そこには社会的・歴史的にさまざまな制限や条件が存在する。絶対的な「正解」などだしようもなく、いずれもその時代時代の正義や価値観を離れて語りえない。
だとすると、特定の思想的語りが、危険思想と結びついたという問題に十分注意をはらいながらも、思想一般がもつ危険性があるということにも十分注意がひつようなのではないだろうか。自身の思想・信仰をわれわれは何と結びつけ、何に投影しているのか、自身の語りや思想を相対化し、確認をするという作業が重要なことなのではないだろうかと思うのである。
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